研究テーマの紹介

●天然素材を化粧品原料にするためのアプローチ 
—ナノ細孔体などを用いたハイブリッド材料の開発

分子と同等の大きさの細孔をもつハイテク粉体であるゼオライトメソポーラスシリカを合成し、これらのナノ細孔や骨格に種々の天然由来原料を導入し、化粧品用高機能材料として活用する研究をすすめています。


①透明で肌に優しい無機UV防御材料(酸化鉄の活用)
酸化鉄を骨格に組み込んだ、新規なナノ細孔粉体(メソポーラスシリカ)の合成研究をおこなっています。
酸化鉄は高分散状態になると、透明になり紫外線を吸収します。こうしてできた紫外線吸収剤は 有機合成の吸収剤やナノ粒子と異なって、敏感肌・アトピー肌の人でも毎日使用できるUVケア化粧品に適しているといえます。

②透明で肌に優しい無機UV防御材料(フラボノイドの活用)

シークワサーなどの果実などから抽出されるフラボノイドをナノサイズの細孔中に固定化する研究をおこなっています。
細孔内でフラボノイド分子が高分散状態になることで光吸収能が高まり、UVB波を吸収する紫外線吸収剤として、使用することができるようになります。またヒリヒリとした感触を生じやすいフラボノイドが肌に直接触れる懸念もなくなります。


③光や熱に強い 植物系色素の開発
花・果実などから抽出されるアントシアニン色素をナノ細孔中に固定化すると、植物中での安定状態が再現されることで、色素の耐熱性・耐光性が高まります。アレルギーの懸念のあるタール系色素を避け、天然色素のみで作った、安全・安心なメイク化粧品に活用することができます。

黒い食用海苔の中には、鮮やかな赤色のフィコエリスリンが含まれています。加熱で簡単に分解してしまうこの色素を海苔から分離し、層状粘土に吸着させることで蛍光発色をする化粧品用粉体にすることができます。
  
④環境と身体に安全な天然フォトクロミック材料
フォトクロミック色素は光を照射すると色が変化する色素です。汎用のフォトクロミック色素は合成品であり、化粧品や食品には直接使用できません。
穀物のタカキビなどに含まれている天然色素である3−デオキシアントシアニジンは紫外線の照射で赤く着色し、遮光条件では消色していく性質をもっています。
我々は化粧品や食品に用いることのできる溶剤・粉体と3−デオキシアントシアニジン色素を組み合わせることで、フォトクロミック粉体を開発することに成功しました
化粧品・食品・玩具へのインクジェット印刷への応用を目指しています。



④界面活性剤を用いない乳化
サンスクリーンやファンデーションなどの乳液作成には、界面活性剤は不可欠ですが、界面活性剤が不必要に肌に浸透すると肌荒れや刺激をおこしがちです。そこで肌に浸透しない代替技術として、有機表面処理をした粉体(界面活性粉体)による乳化が注目されています。
 我々は、肌に染みこまず、刺激のない植物粉体(セルロース)を開発し、乳液用界面活性剤としての活用を検討しています。カリン果皮を粉末化し、水溶性、成分を完全除去、さらに油溶性成分も適切量除去することで界面活性粉体が作成できます。





油性ゲルを高機能に、そして美唇へと応用


①脱石油資源原料 ー オール植物由来化粧品のためのゲル化剤
化粧品原料の中で、オイルを固化させるゲル化剤だけは、石油由来原料を使わざるを得ません。現行の植物ワックスではゲルの硬さ、オイルの保持性が充分ではないからです。
我々は、電子顕微鏡によるミクロ構造の解析をもとに、植物ワックスであるキャンデリラロウと米ぬかロウ用添加剤として、長鎖ワックスエステルおよび長鎖高級アルコールを開発しました。この植物ワックスと添加剤の組み合わせは、安全安心でかつ枯渇資源ではないことに加えて、食べられる原料でもあります。


②オイルゲルの品質向上


ワックスやゲル化剤を用いてオイルを固化し、得られた油性固形物(オイルゲル)を利用するという技術は、口紅スティックをはじめとして、リップグロス、リップクリームなど口唇化粧品分野で最も有効に活用されています。
オイルゲルに対する技術課題はまだまだ多く、
例えば、

口紅スティックの硬さや塗布性能を自由に制御したい。
・もっと多様なオイルを固化したい。
・硬度の変化やオイルの分離を起こさない、安定な固化をさせたい。
など、更なる技術発展が望まれています。

私たちはワックスやゲル化剤などの分子が油性固形物の中で形成しているミクロ構造を解析し、この構造と油性固形物の物性との関連を明らかにすること。そしてミクロ構造を精密に制御できる素材や製造技術を開発することで、上記の技術課題を解決することを目指しています。

③美唇の研究と唇用新素材の探索

唇は角層が最も薄く、皮脂腺も存在しない無防備な部位です。そのため乾燥、色くすみ、硬化、アレルギーなどのトラブルが頻発します。

だが面積が小さく繊細なので、肌に比べて研究が充分におこなわれていません。
例えば
①水分補給のために舐めると、唇がますます荒れるのはなぜ?
②リップクリームは唇に良いのに、ほとんど同じ原料を用いている口紅やグロスを塗ると唇が荒れるのはなぜ?
などは、謎とされています。

我々は唇を徹底的に科学して、美唇の実現に必要な保湿剤や血行促進剤の探索をおこなっています。

植物由来の唇に優しいゲル化剤を開発し、理想の唇を実現するリップクリームへの応用に取り組んでいます。